黒いシェパード/鈴木慶一

夜の河 歩いてく 闇の谷 登ってく
墓場まで 背負ってく 秘密 この石の上に

置いていく 勇気など 持つならば ここにいやしない
突き刺さる悲しさも 捨てていきたい この夜

黒いシェパード 君の吐く息は
一行の詩で 僕の雲 風

道連れよ 答えろよ
悲しみや 重い荷を 外しては
人の子は 生きていけるだろうか

(悲しみよ よう聞けよ
一行の詩 残せたら
山が燃え 沈んでも
生きたことに なるだろう)

川の始めの 一滴を目指して
一行を吐く 君に吐く 歌

恋人よ 道連れよ 雲と風だけ 身につけ
詩と歌を 登りつめ 河の始まりを見るよ

恋人よ 道連れよ 雲と風をも 脱ぎ捨て
自分らの尾の生えた 川の始まりに流る

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<2005.8.23 青森 詩の朗読 全文>

チバタカヤ
ハシモトシンヤ

2005年8月23日 天気 晴れ
「事物のフォークロア」

一本の樹にも
流れている血がある
樹の中では血は立ったまま眠っている

どんな鳥だって
想像力より高くとぶことはできない
だろう

世界が眠ると
言葉が目をさます

大鳥の来る日 龜の水がにごる
大鳥の来る日 書物が閉じられる
大鳥の来る日 まだ記述されていない歴史が立ち上がる
大鳥の来る日 名乗ることは武装することだ

大鳥の来る日 幸福は個人的だが不幸はしばしば社会的なのだった

一八九五年六月のある晴れた日に
二十一才の学生グリエルモ・マルコニが
父親の別荘の庭ではじめて送信した
無線のモールス信号が
たった今とどいた

ここへ来るまでにどれだけ多くの死んだ世界をくぐりぬけ
てきたことだろう

無線電信の歴史のすべてに返信を打とうとして
少年はふと悲しみにくれてしまった

書くことは速度でしかなかった
追い抜かれたものだけが紙の上に存在した
読むことは悔悟でしかなかった
王国はまだまだ遠いのだ

今日の世界は演劇によって再現できるか
今日の演劇は世界によって再現できるか
今日の再現は世界によって演劇できるか

「そうそう 中学の頃 公園でトカゲの子を拾って
きたことがあった。コカコーラの壜に入れて育てていたら
だんだん大きくなて出られなくなっちまった。コカコーラの
壜の中のトカゲ、コカコーラの壜の中のトカゲ 
おまえにゃ壜を割って出てくるちからなんかあるまい
日本問題にゃおさらばだ 歴史なんて所詮は作詞化された
世界にしかすぎないのだ! 
恨んでも恨んでも恨みたりないのだよ、祖国ということばよ!
「大事件は二度あらわれる」とマルクスは言った 
一度目は悲劇として、ニ度目は喜劇としてだ!
だが真相はこうだ! 一度目は事件として、ニ度目は言語として、だ!
ブリュメールの十八日は言語だ! 連合赤軍も言語だ!
そして俺自身の死だって言語化されてしまうのを拒むことが
できないのだよ! ああ、喜劇!」

まだ一度も作られたことのない国家をめざす
まだ一度も想像されたことのない武器をもつ
まだ一度も話されたことのない言語で戦略する
まだ一度も記述されたことのない歴史と出会う

たとえ
約束の場所で出会うための最後の橋が焼け落ちたとしても

寺山修司

「試みる。」

試みる。正しいことの成り行きを試みる。完全な成り行きを
見届ける傍観者の視点を持ちハッカーたちが行き来する
回路の中に立ちつくすことを試みる。肯定することで
自分を隠匿することを試みる。結論によって過程を
規定しないことを試みる。絶対的なタブーを打ち破る
力の存在を希求しないことを試みる。心に無い映像に
聴覚を持たせることを試みる。心臓を信じることを試みる。
死の快楽のために生を試みる。
殺せないか?高みから見下ろす独裁者たちの試みを。
殺せないか?矛盾をさらけ出し疾走する影を。
撃ち続ける理由を知らない兵士たちの累々たる屍の上に
立ち続ける最強の国家を殺せないか?
僕の作った僕の敵達が支援する世界の構築を
殺せないか?
日々路上を波のように打ち寄せては引いていく
形を持たない群れを、回転させる歯車。
交信する電波の上を難解な言葉を操って
そう見せようとするマネキン。
無意識という意識の上に存在しつづけようと
意識的な操作を図る虚像に見せかけた実像の影。
傷ついた体をなをも傷つけようとする、
あらゆる試みを殺そうとする彼らの試み。
毎秒一台の車が行き来する交差点の真ん中に立って、
動機の無い行為をし続けることを試みる、
垂直の森のハンター達。
破綻した理論を破綻した頭で抱えながら、
なおも破綻するしかない自分を回転させながら
十字路にたって、彼らは銃を向ける。
地上という何処にも無い地平から、
水平という何処にも無い思想を掲げてあらゆる
屋根の傾きを攻撃し続ける。
何も無い体を難解な言葉で覆い尽くし尚更何も無い
言葉の意味もわからない白痴の感覚主義を
もっぱらもっとも普通のように見せ続ける
考えることを知らない偏差値達。
硝煙は、変換された数字を足し引き作る
平均値の遠く向こうに霞む。
殺すのは君の無知。殺すのは君の偽善。
旅立つことを夢に見ながらついに旅立つことが出来ず
夜の夢でのみ旅立ちつづける役者達。
殺すのは君の価値観。殺すのは君の偏差値。
殺すのは君の建前。殺すのは君の正しさ。
殺すのは君の生き方。
考えることを知らない君の仕種の前で
一人沈黙を続ける僕の目前で君が撃たれる。
そのとき君の代わりに僕が死ぬことを(冒頭に続く)。

「今日のクスリ」

俺は降水確率5%の場所で生きている でも君は10%の場所にいる
俺のほうが5%少ないけれど とりあえず世界はまだ晴れている
あくまでも確率の問題
たとえば俺が君とスキンを着けずに抱き合って 子供が出来てしまう確率は
今日雨が降る確率とどっちが高いと思う
しかしこれはあくまでも確率の話だよ あくまで品質本位な社会の内側で
いつも傾向と対策をしっかり読んで研究熱心に生きてきた人たちの話
酸化防止剤が入ったワインを飲んで 西高東低の気圧配置の中で
どれだけ自由な体位で君と交わっていられるかっていう 問題 なんだ
温帯低気圧に変わってしまう前に なんとか人生を駆け抜けていきたいって
考えた奴らの物語さ
俺が万が一エイズキャリアで きみがたまたまそうじゃなければ
俺が君にエイズをうつす確率は 日本がワールドカップで優勝する確率と
どっちが高いと思うんだい

巡り合ってまだ一ヶ月 
なのに俺たちはもう十回は軽く抱き合っているじゃないか
俺たちはお互いの過去を知らずに抱き合った
もう時代はそれさえも許さないと言うのか
君の 過去 を洗いざらい調べなければ 俺は君と抱き合うことも出来ないのかい
スキンをつけないでだよ 
いやそうじゃないスキンをつけたくないって言っているわけじゃないんだ
確かに着けないほうが気持ちいいけれど
でもそんなことを俺は心配してるんじゃない
問題は本質だ 本質は愛情だろ 愛情は誠意だ 誠意は努力さ 努力は勤勉で 
勤勉は勝利で 勝利は成功で 成功は性交だよ

でもいつかは外す時がくる
愛し合っていればいつかは外さなければ
俺たち人間は滅んでしまう ふえなくなるよ 外さなければね
君 ずっと怖がって着けておく気かい そんなものを
疑っている時だけ着けている気なんだろう
俺のことを信じていない間だけ着けておく気だな
相手を信じていない時だけ着けていようっていう魂胆なんだろう
着けろ着けろってそんなことだけ宣伝しているけれど
愛情はどうすんの 着けていれば愛情はどうでもいいのかい
それともずっとお互いを信じずに着け続けようか

もう安全だけを選んで生きていく時代じゃない
もう安全だけを選んで生きていける時代じゃないぜ
そんな奇麗事 どんなに並べ立てても役に立つもんか もっと身近な問題だ
もっとこっちへこいよ 俺はお前を愛している お前が愛しているのなら
ピッタリくっついておくれよ

世界は幻だと思うかい 僕と君がこうやって向かい合っているのも全て幻なのかな
幻のような気がするけれど いつかは君も僕もこの世界からいなくなってしまうよね
いなくなってしまう ただ今だけは見えていて 触れて 感じられるんだ
そこに君がいるってことがわかる 宇宙なんていうものさしは捨てることだ
そういえば昨日 砂丘を見たいって言ってたじゃない いいね行こうか見に
行こうよ砂丘を見に これからすぐ 電車を乗り継いで一番近い砂丘まで行ってみよう
一番近い砂丘 そこもきっと幻だと思うけれど行ってみる価値はある
たとえ世界がただの波動だとしても 今日の僕らには行ってみる価値はあるんじゃないかな
一番近い砂丘 一番近い砂丘 一番近い砂丘 言葉にするとどんどん拡がっていくねえ
一番近い砂丘

どこにあるのかな 地図を開けば場所がわかるかな
ページをめくれば見つけられるかな
まず地図を買いに行かなければならないね 
そうだ一番近い砂丘を知るためにまず一番近い本屋へ行かなきゃ
家を出て最初の角を曲がって
郵便局の前を通って せっかくだからそのとき出し忘れていた喪中の手紙をポストに入れてさ
ついでに銀行でお金をおろさなきゃ 砂丘に行けるだけのお金
それに本屋が閉まるまでに少し時間があるなら 一番近い喫茶店でお茶でも飲もう
君 ケーキなんか注文したら駄目だよ そんなもの一瞬の快楽なんだから
あとは脂肪になって 体内に留まってしまうのが オチ なんだから
でも今日は特別の日だから 固いことは言わないでおくか
なんたって 一番近い砂丘を見に行くんだからなあ
わくわくするね わくわくするよなあ
たとえ世界が幻だとしても わくわくする気持ちに変わりはない
たとえ宇宙がただのウェーヴだとしても わくわくする気持ちに嘘はない
さあ行こう いいから立って いいから立てよ
君が行きたいって言っていた あの一番近い砂丘へ行こうよ
いいんだ 僕は疲れてなんかないよ 僕は悲しくなんてないよ 僕は塞ぎ込んでなんかないさ
僕はもう苦しくなんてないんだ
どうせ 世界は幻なんだから いつまでもくよくよしているわけにはいかない
あの人は無に帰っただけさ さあ行こう 君が行ってみたいって言っていたあの砂丘へ
幻の世界を突き進んで 一番近い砂丘を見に行こう
そして幻の砂をすくってみよう 幻の浜辺を走ってみよう 幻の太陽を追いかけてさ
幻の波をけって 幻の風に逆らってね
僕たちは今に生きるかもめ 今を感じるかもめ
わくわくしないか わくわくするだろ わくわくするじゃん それは確かだ
目を瞑ればそこに 行った事のない砂丘が浮かんでくる
出かけよう今すぐ出かけよう たとえ世界がただの 波動だとしても

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